本屋で目にしないときはないぐらい雑誌、書籍等で活躍されているイラストレーター楠伸生氏に、22年前にこの職業を選んだきっかけから現在にいたるまで様々なお話をうかがいました。都内の落ち着いた住宅街にあるスタジオで終始笑いの絶えない楽しいインタビューとなりました。
photo,interview & text:小島明紀(asterisk)
小島:イラストレーターになられたきっかけを教えて下さい。
楠氏(以下敬称略):もともと油絵指向で高校のころから芸大を受けようと思って、デッサンとか油絵をならっていたんですけど、受からなくて一浪しているときに専門学校に行ったんですけど、それがデザインの専門学校だったんです。その時はイラストレーターになろうとかなれるとか全然思ってなくて、結局その専門学校も一年でやめて、自分で新聞で探した小さなデザイン事務所に入ったんです。それからしばらくしてまた別のデザインとかイラストとかをやっている事務所に入ってそこで初めてイラストの手伝いをしたんです。それがきっかけですね。
小島:そこで初めてイラストを描きはじめたんですね。
楠:新聞のチラシのちょっとしたイラストとか、広告の中のちっちゃなイラストとかを描いたりしていました。そこで2年ぐらい勤めてやめて、というかやめさせられて(笑)、でブラブラしながら仕事やり始めて独立したのが25歳のときです。その時は仕事も全くなくて一人暮らしの家賃も滞ってしまうような状態でした。それで1ヶ月ぐらい家に閉じこもってイラストをたくさん描いて、何を思ったかイラストを持って東京に行ってK2さんとかマガジンハウスさんとかに売り込みに行ったんですよ、それが今から22年前ぐらい前ですね。それから大阪でもデザイン事務所とかをいくつもまわっているうちにちょっとずつ仕事がくるようになったんです。だから「イラストの仕事がしたい!」とかいうのではなく自分が出来ることをやっているうちにイラストレーターになった、という感じでしょうか。
小島:当時はイラストをやるのならまずは東京に売り込み、という方がおおかったのでしょうか。
楠:いえ、ほとんどいなかったと思いますよ。ただ僕は当時、原田治さんとかペーター佐藤さんとかが雑誌で仕事されていたのを見て、大阪には出版社もありませんし、雑誌の仕事をするならやはり東京でしたから。
小島:それで東京から仕事はきたんですか。
楠:その時は全然きませんでした(笑)。でも徐々に大阪で仕事をできるようになってきたんですよ。その時の作品はロシア・アヴァンギャルドとか(笑)マチス風とか、いろいろ描いてました。
小島:それから大阪では何年ぐらい仕事していたんですか。
楠:えーと25の時に初めて納税して・・(笑)29歳まで大阪で仕事をしてました。それで、29歳ぐらいの時にとりあえず東京に部屋を借りてそこに電話をおいて、東京の仕事はそこに電話が入るようにして大阪に転送してました。
小島:やはり東京の仕事は連絡先が東京の方が都合がよいというのがあったのでしょうか。
楠:多少はあると思いますけど、いずれ東京で仕事をしていこうと思っていましたから、まずは部屋を借りて電話を置いておこうと。実際に会って打ち合わせが必要なときだけ上京して、という感じです。
小島:東京にきてからはコンスタントに仕事はできるようになったんですか。
楠:いえ、東京にきてからもしばらくは大阪の仕事の方が多くて、売り込みにまわったんですけど、その時の作品の評判は悪くて、仕事はあまりありませんでした。それで、することもないので立体でも作ろうかなと思って人形を作るようになったんです。それからカメラマンに頼んで撮影してもらって作品見本のファイルみたいなものを作りました。そしてそのときちょうどイラストレーションファイルが創刊されて、掲載してもらって、イラストレーション誌の方でもたまたま特集を組んでくれて、表紙にも立体の人形を使ってくれたんです。それで気がついたら仕事がすごい入るようになって、もう大変だったんですよ。でも嬉しいから依頼は全部受けて、もうグチャグチャになりながら仕事をしてました。制作した作品はどんどん持って行かれて、オリジナルで制作するのが間に合わなくて作品ファイル用に撮影したポジもみんなそのまま使うからって持って行っちゃうような状態でした。何か立体ブームみたいな感じでしたよね。それからはコンスタントに仕事ができるようになってきましたね。
小島:楠さんはいまおいくつでしたっけ。
楠:47です。
小島:ということは始められたのがだいたい25だから、
22年!(二人声を合わせて)
小島:22年間イラストの世界で第一線でお仕事を継続されてきた秘訣みたいなものがあったら教えていただきたいのですが。
楠:いえいえ、ぜんぜん第一線じゃないです、謙遜でも何でもなくて。僕なんて初めっから志なんか低くて、ただ仕事として、下世話な言い方になっちゃうけどお金になるから始めたみたいなもんだし。でも結局イラストって時代のものだし、使い古されるものだし、いくら自分でいいと思っても、世間の評価があって、仕事になって初めて価値がでるものだし、いわゆるアートとかそういうものではないし、やっぱりスポンサーの需要があって初めて成り立つものだと思うんです。いくらいいものでも時代にあってなかったらいらないものだし、だからこれからもどうなるかわからないけど、いま思うのは、仕事になる絵が描けるようになりたい。望まれる絵を描けるようになりたい、と思ってやってきたかな。だからといって、今たとえば若い女性のイラストがとても人気があるからそれを描こうというのでもないし、第一そういうものって上手くまねして描くことはできてもそれがいい絵とは限らなくて、上手いとか下手とかではなく、ちょっと下手でもセンスがあるとか、その時代のその人のものだと思うんです。だから無理して描いてもだめですよね。頑張ろうとかいう気力も以前よりはないし(笑)、残念ながら。そんなんもうどっちでもいいっか、って。だって無理して若いこぶってそんなセンスのいい絵なんて描けないし、かといってオッサンくさい絵描くのもいややし(笑)、だったら仕事していって望まれるものを着実にしていくほうがいい。でも矛盾してるんですけど、決まったページものでグロスでどかっと仕事になるとか、そういうのはあまりやりたくなくて、やっぱり旬というかそこに近いところで仕事はしていたいですね。
小島:楠さんは作風が結構早いサイクルで変わられていく印象があるのですが。
楠:思いつきで・・(笑)
ほかの仕事やっててなんか資料見ているうちに、あ、ちょっとこんなん描いてみようかな、って。
小島:じゃあ、新しい作風を生み出すぞ!みたいなのはないんですか。
楠:ないですねぇ。そういう時間を設けなくちゃいけないんでしょうけど、集中力ないんですよね(笑)。それで、ちょこっと描いたものがたまたま知っている人に見てもらって仕事になったりとか。
小島:ちょっと描いてみよう、というのは雑誌とか街で見かけた人とか風景とかですか。
楠:雑誌は見ますけど、そのために街にでて観察するとかいうマメさは全くないですね。でも町歩きは好きだから古本屋とか古いレコードジャケットとかは好きで買いますね。そういうものからは影響受けるかもしれないですね。
小島:それでは最後にこれからやってみたい仕事はありますか。
楠:マンガに興味がありますね。
別にストーリー考えてセリフを入れてとかではなくて、コマでわられているあのマンガスタイルみたいなものでしょうか。表現方法として今まで自分の中になかったものなので。なんかヒーローとかキャラクターみたいなものが登場していたりして。
小島:それではまた新しい作品を楽しみにしています。ありがとうございました。
楠:ありがとうございました。